悪夢

テーブルの上に10枚のカードが並べられる。そのうちの6枚には「5年以上生存保証」と書かれてあり、残りの4枚には「余命はあと5年以内」とある。裏返しにして、どれか一枚選びなさいと言われた。まだ選択したくない、パスしますと言うと、医師はそれでは、すぐに取り返しのつかない事になると宣告した。それから3年が過ぎ、確かに今は取り返しのつかない状態なのかもしれない。あのとき、決断をしておけば、今頃はどうなっていただろうと考える。ガンはトモダチ、自分の身体の一部、身体の老廃物を排出するように身体が作ったものだ、と思う反面、燃えるごみとして身体からすぐに排除したくなる日もある。


丸山ワクチンは水のようなもの。この言葉も耳に残っている。そうであるとすると、たまたま、私のケースはガンの進行速度が遅いだけなのだろうか。「余命はあと5年以内」のカードは治療を受けることで、逆に余命が短くなるということなのだろうか。


ガンの分裂速度が正常の細胞よりかなり早いことに注目してほとんどの抗がん剤は作られている。活動している細胞により多くのダメージを抗がん剤は与える。だからもれなく治療を受けると髪の毛が抜ける。ガン細胞が活動を、細胞分裂を休止していれば、その効果はない。さらに放射線治療では、細胞分裂の最中にだけ照射をうけた細胞が分裂を休止、破壊される。一日1グレイ、40日ほどの放射線を当てられた時に、たまたま分裂を始めていた細胞が破壊されるというイメージがある。丸山ワクチンが水のようなものであると仮定して、照射を受けたとしても、すべてのガン組織が破壊されたであろうか。3年が過ぎ、今頃は一時の安心の時を経て、再発、もしくは転移して、苦悩の日々を送っているであろうことを想像する。


進行速度が遅いのが丸山ワクチンのおかげであるとすれば、こんなことを想像しても意味をなさない。取り返しがつかないのは人生だ。すべては悪夢、明日起きた時には昔の子供の頃の楽しかった時代にもどっているかもしれない。自然が豊かで、人間がのんびりしていた時代。あの頃に戻りたい。今日も朝早く、目が覚めてしまった。