すべてのものには求め合う力が存在する

多摩全生園からの帰り道、秋津駅のプラットホーム、次の電車を待っている間に丸山は先ほどの福士との話を思い返していた。患者の体内でライ菌が死んでしまってから、ガンが増えているんだ。なぜ、ライ菌が生きている間はガンにかかっていないのだろう。もともと免疫力が弱いのなら、若いうちにガンにかかっても不思議はないはずだ。生きているライ菌が免疫力を高めているのだ。そう考えれば説明がつく。これはえらいことに気がついたと丸山は興奮を覚えた。


秋津駅の次の駅が清瀬駅、そこには結核の療養所がある。ライ菌と同族の結核菌を持つ患者でも同様のことかどうか調べてみたくなった。すぐさま次の駅で降り、結核の療養所に向った。「化学療法で結核が治ったひとに、ガンで亡くなるというケースはありませんか?」「いいえ、治ると、療養所から出て行きますから、その後のことまで分かりません」 この点がライの療養所との大きな違いだった。しかし、相手のドクターがふとこう言った。「そういえば、最近は昔と違って老人の結核患者が増えているのですが、ガンができたという話は聞かないですね〜」次の週、丸山は福士と会った。「ライ菌もしくは結核菌がガン抑制物質を分泌しているとか、ガン抑制物質の産生を促進しているか、どちらかではないかと思うのです」 福士はのちに、ライ患者の剖検による死因を正式に調べてみた。化学療法以前の41歳以上での悪性腫瘍死亡率1.5%(1200人中18人)、化学療法が登場した昭和30年〜54年は30.8%(360人中111人)、ガンの死亡例はいずれもライの沈静期にあった者で、ライの活動期の患者からは一例も見当たらなかった。


ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見た。そこから想像力を働かせて真理を得た。真理はだれの目の前にもある。だれもが気づかないだけ。丸山博士は自分の生活のことも家庭のことも、あるいは大学のことも、次にまわして、常にワクチンのこと、免疫のことを考えていた。だからこそこのひらめきが得られたのだろう。丸山ワクチンによって救われたガン患者は確かにいた。同時に救われなかった大勢の患者もいた。どこに違いがあったのだろうか。 もうそろそろ誰かが気づいても良さそうに思う。 すくなくとも丸山ワクチンにはガンに対する効果がまったくないと断言するようなヒトは眼があっても目が見えていないのに違いない。