堀口申作著「Bスポットの発見」

30年ほどの前のこと。獣医師として仕事を始めてしばらく経ったとき、牛舎に入ると鼻水が止まらなくなった。鼻炎アレルギー。風邪を引いているわけではないのに咳が続くような症状も続いた。耳鼻咽喉科に出かけて処方された薬を飲んでみたけど、いっこうに治らない。この症状の原因は、上咽頭部の炎症に起因するという本を読んで、納得できたので鼻うがいを励行してみたところ、徐々に症状は改善した。その、同じ部位、上咽頭部にガンが今になって発生した。関連性があると考えるのが自然ではないだろうか。

堀口申作先生の本によると、頭痛、めまい、肩の凝り、気分のイライラ、不眠、疲れやすい、微熱、食欲不振、鼻つまり、のどの異常感、これら多種多様の病状は、病院に出かけて訴えてみても、気のせいと言われるのがオチ。それらの症状の原因は、Bスポットと呼ばれる上咽頭部における炎症が原因している場合が多いという。

Bスポットー上咽頭部にはアデノイドをはじめとして、多数の免疫組織が分布している。鼻道を経て肺に至る間にある、異物が体内に侵入するための検問所、チェックポイントを担っているのが上咽頭部にあたる。ちなみに私のガンの組織名もリンパ上皮ガンだ。この上咽頭部にある免疫センサーが誤作動を起こしていることが、免疫システムの異常による疾患、リウマチとか膠原病、喘息、続発する口内炎胃潰瘍などの原因になる場合が多いという。牛の毛髪、さらにはフケが鼻のなかに侵入し、それを異物と感じるセンサーが働いたということ。

Bスポットを刺激するという治療法は現在でも細々と続けられているが、保険医療の対象となっていないので、手技は簡単であっても、高額(1回あたり3万円ほど)の治療法になる。金額に値するほどの治療手技ではないが、考え方は間違っていないと感じる。この本のまえがきにはこう書かれてある。

大多数の医師は、自己の学問的、社会的良心にしたがって、研究治療にあたっている。しかし、その熱心さのあまり、かえって自分の専門分野のなかに閉じこもり、他をかえりみようとしない弊害が出てはいないだろうか。そして、その意図せざる結果として、病気を治すという目的よりも、自分の学問的、臨床的業績を優先させるという本末転倒が、ときとして起きることにもなる。

あらゆる生物というものは、けっしてたんなる部分の集合体ではない。部分を統合している全体があって、はじめて生き物たりうるのだ。その全体をつねに考慮に入れ、相手にしていかない限り、生命を扱う科学技術たる医学は、やがて進歩の袋小路に迷いこまざるをえなくなるだろう。