戸塚洋二さんのガン闘病日記

ノーベル賞に近いところにいた物理学者、戸塚洋二著「がんと闘った科学者の記録」を読む。2009年5月30日の発刊書籍。ガンの進行が早まったあたりから匿名にてブログを書き始めた内容が本にまとめられたもの。2000年11月最初の大腸がん手術を受ける。2004年左肺に転移、2箇所のガンは手術で切除。2005年9月右肺転移(無数)、手術不可。2006年4月化学療法開始。2008年1月肝臓に転移発見。2月骨に転移。3月脳に転移。


抗がん剤による治療。5-FUとの相性が悪く、強い吐き気に悩まされた。そのときに医師から新薬に切り替えると提案された。今まで使っていた薬を止めて新しい薬を試すというのが普通に考えること。副作用のきびしい5-FUを止めて副作用の少ないといわれる新薬のアバスチンに変わるのを楽しみにしていたという。現実は違っており、従来の治療に新しい抗がん剤が付け加えられたという。さらに、この組み合わせが効かなくなるとオキサリプラチンをさらに追加された。シスプラチンと同種の薬。ささいな思い違いでもガッカリしたことだっただろう。


抗がん剤は分量と投与周期をきちんと守らないと効果がない。実際の治療に際しては、これを実行するのが難しい。副作用を考慮しながらの投与になる。副作用に耐えれなかった自分を責めるような記述がある。抗がん剤を一度キャンセルしたことで、その効果が半減しガンが大きくなったのは自分の弱さのせいだとある。脱水症状、細菌性肺炎、イレウス-腸閉塞、間質性肺炎、白血球数の低下、吐き気など死に直結してもおかしくない副作用も含まれる。


ガン患者にとって一番の希望はなんだと思いますか。個人個人でばらつきはあると思いますが、私にとって一番の希望は、がんが完治する必要はない。今の状態でいいからすこしでも長生きがしたい、です。しかし、耐えられない苦しみはご勘弁ねがいたいですが。(本文より)


疑問を感じつつもプロである医師の施術を最大限に尊重する姿勢は一貫している。発症から7年経過しているだけでも、最新医療の恩恵を受けているからだと感謝する。治療を受けなければもっと前に亡くなっていたとも思っていた。きっと、根拠のない代替医療は眼中になかったことだろう。治療内容、症状、画像診断による腫瘍サイズの変化、腫瘍マーカーの数値、副作用について、物理学者らしい記録が載せられてある。そして、同じようなガン患者に対してこの記録が役立つことを願っていた。しかし、体験談を読み通して、抗がん剤治療は受けるべきではないという印象のほうが先に立つ。はたして、これは著者の望むところだったのだろうか。読み続けるにつれて、将来への希望がだんだんと縮小してきているのも感じるところ。絶えられない苦しみはご勘弁と願いながら、絶えられない苦しみが襲ってきた時の気持ちを思いやる。これが、賢者が選んだガンに対する最善の対処の仕方だったのだろうか。この本が編者が望むごとく、ご同病のガン患者の参考になることを願いたい。


天国はほんとうにないのか。だれもが死にいくとき、それが真実かどうかを実体験します。私が最後科学的作業としてそれを観察できるでしょう。残念なのは観察結果をあなたに伝えることが不可能なことです。(本文より)


はかなく、胸が締め付けられる内容。最後まで無神論者だったようだ。