治療法は患者が決める

医者はね、すぐ手術しなさいって。「手術しなければ余命1年だ」って、こういう風に言われたのね。それがね、若いのに、えらそうに言ったの。それで私は、カチーンときてね、冗談じゃない、こんな若造に、余命なんて言われる覚えはないと。勝手に決めるなと。だって、そうでしょう。それで物凄い反発心が起きて、当時私は70歳でしたから、「人間70歳になって身体にメスを入れたりすれば、ろくなことはない」と、だから、病状がどうあろうと、とにかく身体にメスを入れたくないという気持ちが強かった。


これは、安保徹著「病気は自分で治す」という本の中で紹介されている文章だ。安保教授はこう感想を記している。大事なのは患者自身の持つ人間力の大切さです。いつも他人の言いなりの生き方をしていては、難局から逃れる力も生まれてこないのです。


この文章のとおり医師がしゃべったのであれば、時代錯誤にあるのは医師の側であるのにまちがいない。医療側が裁量権を持って医療行為をするというバターンは、日本だけではなく、かつては全世界で共通していた。しかし、最近のアメリカの医療現場では違ってきているという。そして、アメリカではガンの死亡率が低下傾向にあるという。その理由はエビデンスのある治療法が一般に認知されてきたという意見もあるが、一方では、患者自らが選択する代替治療が普及してきているからだという意見もある。


インフォームド・コンセントという言葉の真の意味は、医師が患者に対して情報を十分に伝えて、患者がそのなかから選ぶ権利を行使するという考え方のことをさす。治療法の選択が生死に直結するガン治療に関してはなおさらのことだ。医師からセカンド・オピニオンを薦められるということもガン治療の現場ではよく聞くことである。「私はこのように治療すべきとあなたに強く勧めますが、あなたが私の意見に同意できないのであれば、ほかの医師を紹介しますから、どうぞそちらへかかってください」 このぐらいは言ってほしい。アメリカでは患者が病気に対する治療法を決めるという意識が医療の現場に定着しているという。それがガンからの生存率の高さにつながっていると考えるのはまちがっているだろうか。


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