木本哲夫博士の研究

木本が初めて丸山ワクチンと出会ったのは、昭和54年ごろのことである。子宮ガンが肝臓に転移して死亡した50歳ぐらいの患者の病理組織標本を見ておどろいた。ガン巣にリンパ球が集まり、その部分のガン細胞がほとんど消失していたのだ。主治医に聞くと、「この人は一年間、丸山ワクチンをうっていた」と言う。その頃、木本は、岡山労災病院の古本雅彦外科部長から、患者の希望で丸山ワクチンを使ったことがあるが、末期の乳癌だったにもかかわらず長く元気でいられたという話を聞く。木本が「あなたのところで、乳癌末期の患者さんがいたらすぐに丸山ワンクチンの単独投与をなってみてもらえないだろうか」と言うと、古本は承知した。


その岡山労災病院に、全身を衰弱させた末期の乳癌患者(43歳)が入院してきた。腋の下にガンの浸潤で潰瘍ができ、手を上げることができない。ホルモン療法を試み卵巣を摘出するために開腹したらガンは骨盤や卵巣にも転移していた。貧血もつよく手術不可のだめ、ただちに丸山ワクチンの単独投与が始められた。おどろいたことに、この患者の潰瘍は4ヶ月後にかなり縮小し、手が挙がるようになった。1年後に潰瘍は治癒し、元気に職場に復帰した。もうひとり、末期の乳がん患者(27歳)。手術後すでに皮膚、腰椎に転移していたが、丸山ワクチンを使い出して半年で家事に従事できるようになった。やがて皮膚転移のガン巣がかさぶたとなり脱落した。


ふたりの患者は、この間、木本のために進んで生検を行なってくれた。初めの患者が4ヶ月後に行なった生検の組織所見では、リンパ球が患部に集積しているのではという木本の予想に反して、コラーゲンの増殖が顕著にみられた。二人目も同様であった。コラーゲンが個々のガン細胞を雲の巣のように取り巻き、ガンの増殖を抑制しているようだった。


木本は千匹以上のヌードマウスを使って本格的な実験に取り組んだ。やはり先の生検で見られたと同様の所見だった。体内でガンと立ち向かっていたのはリンパ球そのものではなく、間質細胞であった。いろいろな種類のコラーゲンなのである。ヌードマウスというのは先天的に免疫力が弱く、正常のマウスと違ってT細胞(リンパ球)が極めて少ない。このため、各種人ガンを移植しても、リンパ球を除外して実相を確かめることが出来たのだった。