大丈夫や。きっと、うまくいく

医師が薦める治療を断わっている。医学を職業の糧としているのにもかかわらず。断わった理由はガンの部位が脳に近いところにあることと、治療の選択肢がほぼひとつしかないことだった。告知を受けたときに、ライナックだけを当てて少しのあいだは様子を見たいと医師に言ってみたが、あっさり断られた。ところが下咽頭がんの場合は放射線治療だけで様子を見るという選択肢がある。再発したときには手術で取り去ることができるからだ。その後、ガンマナイフやサイバーナイフを持っている病院にも相談を受けに出かけていったこともある。こちらは耳鼻科ではなく脳外科だ。いままで疼痛緩和目的では行なったことがあるが、治癒目的では行なったことは今まで無いと告げられた。5年生存率を示すことができないほど治癒は望めないと、お勧め出来ないといわれた。だから重粒子線治療であっても受付てもらえないだろうと思う。ホウ素中性子捕捉療法に期待がもてると思ったが、こちらも断わられた。


告知から2年7ヶ月ほどになる。標準治療を受けていれば、現在どんな状態にあるのだろうかと想像する。治療を受ければ一旦ガンは消滅する、もしくは小さくなる。たぶん、今頃は再発をおびえる日々を過ごしていることだろう。口内炎が多発して食べ物がまずく感じていることだろう。上咽頭部は免疫に重要な役割を果たしているところだから、外に出る際はマスクを欠かさず、できるだけ家のなかでじっとしているのではないかと思う。仕事には復帰できていないだろう。感染も心配だから。家計が回っていかなくなって、かあちゃんも働きに出ているかもしれない。5年先の1ヶ月を安らかに過ごすことを夢見るよりも、明日の1日を安らかに過ごせることを選択した。今晩も、野菜系のつまみを食べながら酒を飲む、まだ生きているという気持ちを実感する。だから、後悔はまったくしていない。


ガンは消滅しているようには感じないので、今後もすこしずつ大きくなるのかもしれない。将来のことを考えたりする。このまま行って、緩和ケアの医師は親身に治療をおこなってくれるだろうかと心配になる。すべての医師を敵に回しているような気持ちになるときもある。治療を断わったこと、丸山ワクチンを選択したことにも後悔はない。


将来に対するイメージは違うパターンも考えている。ガンが大きくなったその後、果実の実が熟れてはじけるように、突然にポトリと取れてしまうこと。ふたたび健康をとりもどしたことが実感できたときには体験談を本に書く。決してあきらめてはいけないとガン患者を励ます内容になる。3人に1人がガンになる時代。本はきっとベストセラーになるだろう。 あこがれの印税生活。徹子の部屋に招かれる。その後、80歳ぐらいで痴呆症を発症したのち天国へ召されることになる。大丈夫や。きっと、うまくいくと自分に言ってみた。


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